当ブログ内で、僕の取り組んでいる「ネガ」というテーマについて特に説明して来なかったことに気がつきました。
今回は少しこの件について書いてみようと思います。
これは僕が最近描いた作品です。
(クリックすると大きい画像で御覧になれます)
画材は画用紙と色鉛筆です。
色鉛筆の絵としては黒みの占める割合がかなり多く、全体的に暗い色調になっています。色鉛筆で絵を描いた経験のある方ならお気づきかと思いますが、色鉛筆で完璧な黒を求めることはかなり困難です。不可能ではありませんが、多くの手間(黒一色ではなく、他の色もじっくり塗り重ねながら濃い黒を作っていくことが多い)がかかり、また他の明るい色の発色も妨げかねません。
また、通常の絵のように白い紙をベースにしたのではなく、黒い紙の上に明るい色を置いているような状態になっていることも特徴です(プラモデル等を嗜まれる方でしたら、重厚感を出すための塗装法として使われる『黒立ち上げ』を連想されたかも知れませんね)。白ベースに闇を描くのではなく、黒ベースに光を描くことによって、より光が光らしく美しく輝いています。しかし、実際に黒い画用紙に色鉛筆で描いてみると、このような鮮明な色は得られないことが分かります。
それらの諸問題を解決し、且つ印象的な美しさを得る方法が、僕が高校生の頃から取り組んでいる「ネガ絵」という手法です。
上の絵の原画は、実はこんな状態になっています。
(同上)
フィルムカメラで写真を撮ったことのある方なら御存知のネガフィルムのような状態(いわゆる補色)で原画を描き、それをスキャン等でコンピュータに取り込み、画像編集ソフトを用いて「階調反転」することによって最初の画像のような完成形に至る、という回りくどい技法がネガ絵です。
発想の起源は手抜きでした。
高校2年生の頃に映像制作に興味を持ち、友人達と休み時間や放課後にビデオカメラを回し続ける毎日を過ごす中で、カナダのアニメーション作家フレデリック・バック氏の色鉛筆アニメーション作品と出会い、触発された僕らは「色鉛筆でアニメーションを作ってみよう」という企画を立ち上げました。
いくつかのアイデアが出される中で、採用になったのはロウソクを主題にした短い作品でした。
ロウソクの火がモチーフであるなら、背景は暗い方が良い。至極当たり前の考えですが、色鉛筆でそれを実現するのは至難の業でした。何百枚にものぼる動画の1枚1枚を色鉛筆で黒く塗りつぶす手間は想像を絶し、さらに黒く塗りつぶせたとしても均一に塗れなければ背景の黒みがバサバサと目まぐるしく動く映像になってしまう。黒い紙に色鉛筆で描いたのでは、鮮やかに発色してくれない。
テストを重ねて方法を検討し続ける中で、誰が思いついたのかはもはや思い出せませんが、当時使っていたビデオカメラにあった「ネガ撮影機能」の存在に考えが至ったのです。
ネガ撮影で色を反転させてしまえば、白い紙が黒くなる。
恐ろしくシンプルな発想ですが、効果は絶大でした。背景に何も手を加えなくても均一に黒くなってくれるだけでなく、反転を前提として選定した補色の色鉛筆で描かれたロウソクの火は、普通に描いたものよりも火らしかったのです。
これが、その時に作ったアニメーションの一コマです。
これと同じものを普通に描くとなるとかなりの苦労が想像されると思いますが、ネガという手法では実に容易にこうした絵が描けたのでした。
このアイデアに辿り着くと同時に、僕らは「どの色がネガではどんな色になるのか」を実験し、「ロウソクの火は◯番と◯番の色鉛筆」というように細かく色指定を行って、必要な色鉛筆を人数分購入して配布し、アニメーション制作に取りかかりました。
アニメーションの完成とともに、メンバーはこんな奇妙な技法で絵を描くことはやめてしまいました(なにしろ、僕らが描いていたこの奇妙な色の絵が完成した姿は、ネガ撮影機能のついたビデオカメラのファインダーの中にしか存在しなかったのです)が、自前のビデオカメラを持っていた僕だけは、その後も取り憑かれたようにこの技法で絵を描くことに熱中しました。この技法で風景を描いてみたらどうなるだろう。この技法に合ったモチーフや世界はどんなものだろう。楽しい試行錯誤を続けました。
それが今から12、3年前のことです。当時の僕はノートPCは持っていても画像編集ソフトもなく、色鉛筆で描いたネガ絵をビデオカメラごしに眺めてニヤニヤしているだけでした。
数年前にPhotoshopを使えるようになり、昔描いていたネガ絵たちを掘り起こしてスキャンし、「階調を反転」して鮮明なネガ絵の完成データと対面した時の感動は忘れません。
昨年11月のデザインフェスタへの参加が決まり、何か出品出来るものがないかと思案を重ねた末にこのネガ絵のことに思い当たり、宣伝も兼ねて簡単な技法解説を画像も交えてツイートしたところ、瞬く間に大量にリツイートされ、togetterにまとめ記事が出来てビックリする程のアクセスを頂き、とうとうガジェット通信で記事にして頂くまでになった時の驚きと興奮は忘れられません。
「新しい!」「デジタル時代ならでは!」という多くのリアクションには「もう10年以上やってるし、当時は21世紀にすらなっていなかったし、これを始めた頃はパソコンもろくに扱えず古いビデオカメラでやってたんだけどなあ・・・」と苦笑いもしましたが、自分にとっては当たり前だと思っていたことが多くの方達にとっては新鮮な驚きであることに気付かされ、自信と手応えも感じたのです。
そうして今日に至っています。
新しいネガ絵を描きながら「この技法だからこそ出来ることは何だろう」と考えることが多くなり(技法にこだわるあまり、手段が目的化しているのではないか?という疑問と反省も最近はしているのですが、その話はまた気が向いた時に)、その中で「立体にもネガ着彩を施してみたい」という気持ちが強くなりました。
そのひとつの形が、先日のブログ記事にも掲載したデザインフェスタ出品作「ネガ・カエル・ストラップ」です。
高校生以来の粘土作業に悪戦苦闘し、初めての型抜きや樹脂の扱いに四苦八苦し、着彩方法にも課題を多く抱えましたが、とりあえず現時点での成果です。
この画像を階調反転すると、以下のようになります。
結構それっぽでしょ?
ストラップという日常品にネガの世界を持ち込もうという気になったのは、多機能なビデオカメラも、写真を撮ってPCに取り込んでソフトで階調反転する手間もかけることなく、今ではネガの世界を気軽に楽しめるようになったことについ最近気がついたからです。
スマートフォンやタブレットの普及です。
Android機種では画像編集のアプリをインストールする必要があるようですが、iPhoneやiPadではOS全体の色を反転する機能が最初からついているため、目の前のものをリアルタイムでネガにして楽しむことが出来ます。
やり方は、
「設定」→「一般」→「アクセシビリティ」→「色を反転(オフ→オン)」
これで画面全体の色が反転されます。この状態でカメラを起動すればOK。
先程のネガ・カエル・ストラップもこのように楽しむことが出来ます。
(カメラごしにディスプレイを写しているので若干色味が変わっています。肉眼で見ると綺麗ですよ!)
さらに、
「アクセシビリティ」→「ホームをトリプルクリック」→「色を反転」
に設定すれば、ホームボタンを3回クリックするだけで上記の説明と同じ効果を得られるので、反転作業はより容易になります。
是非お試し下さい(より綺麗にネガの世界を楽しむコツは、色を反転して鑑賞したい対象にはできるだけ均等に光を当てるということです。影が出来ると、その部分は白くなってしまい、色彩を楽しむ妨げになります)。
ネガという技法の特性や魅力を考える中で、現在は立体に興味を持っています。イラストという平面のデータでは、普通に描いたものだろうとネガ着彩で描いたものだろうと完成形態に差はありませんし扱いも価値も並列ですが、立体作品ではその存在意義も異なってきます。デザインフェスタの会場にiPadを設置し、お客さんに実際にネガの世界を体験して頂いてその反応を見たことで、その方向性に手応えも感じました。
目の前の空間が一瞬にして異世界になる、そんな作品を夢見ています。
いつ実現するか分かりませんが、取り組み甲斐のある課題ではないかな、と思うのです。
長くなってしまいましたが、それでは、また。
[25回]
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